第6回 カエデの樹液の恵み
これまでお話ししてきたように、メープルシロップは北米で作られ、古くから人々に親しまれてきました。それは同時にメープルシロップにまつわる様々な物語をその地方の人々の中に残してきた歴史でもあります。
ローラ・インガルス・ワイダー著作の『大きな森の小さな家』(恩地三保子訳/福音館書店)もその物語の一つです。テレビドラマ化されたものを日本でも『大草原の小さな家』として何回も放映していたこともあり、私たちにとっても馴染みの深い作品だと思います。
その物語の中、「さとう雪」の回の中でメープルシロップを作る場面がでてきます。カエデの木に穴を開けバケツに樹液を溜め、それを煮詰める、というメープルシロップの作り方がこの物語の中でも行われています。
ここではメープル・シュガーの作り方もでてきます。樹液をさらに煮詰め、小皿にとって冷やして粒粒の固まりになる濃度まで煮詰めるというのがそこでのメープル・シュガーを作る方法です。いい頃合を見計らって濃い樹液を鍋に移し変えると文中の「かたい茶色のかえで糖」=メープル・シュガーのできあがりとなるのです。煮詰め方が足りないと、砂糖のように固まりませんし、煮詰めすぎるとかちかちの飴のようになってしまうので、そのタイミングが難しいようです。
その回の題の「さとう雪」とはその地方でカエデの樹液を採る頃に降る雪のこと。温かくなってきたこの時期にもう一度気温が下がって雪が降ると、カエデの木の芽吹きが遅れ、それだけ永く樹液が木の中を流れ、たくさん樹液を採ることができる。その気温の変化が運んでくれるメッセージに感謝をこめて「さとう雪」 と名づけたのでしょう。
同作の「じいちゃんの家のダンス」の回では、パーティで主人公・ローラをはじめ子どもたちがかえで糖、メープル・シュガーを食べる場面があります。平鍋で シロップを煮詰めるのはおばあちゃん、何度も小皿にシロップをとって、煮詰め具合いを確かめながら焦がさないようにかきまわしながら慎重に頃合いを見計らいます。やっと小皿のシロップが粒粒になる濃度までゆくとおばあちゃんは大急ぎで子どもたちを呼び寄せました。そして子どもたちはできたてのメープル・ シュガーを味わうのです。
こういった話からも古くからカエデの樹液が人々の貴重な甘味の摂取元として親しまれてきたことがわかります。樹液を煮詰めてメープル・シロップにするだけでなく、更に煮詰めることによって、違ったかたちの甘味のある食品へと変えてゆくという工夫がされてきたようです。メープル・シロップをさらに煮詰めると、もっと甘味が強くどろっとしたメープル・バターに。そしてさらに進むと先ほどでてきたメープル・シュガーになります。かちかちの飴状にしたものはメー プル・シュガー・キャンディーとして味わうこともできます。
砂糖キビから採れる汁が黒砂糖、三温糖、グラニュー糖などと姿を変えることができるように、カエデから採れる樹液もまたさまざまな形で私達の趣向にあった形で自然の甘さを伝えてくれます。