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メープルストーリー

第4回 春を待つカエデ

3回目でメープルシロップのできるまでのプロセスを簡単にお話ししましたが、今回はメープルシロップができあがるまでを、もう少し掘り下げ詳しくお伝えしてゆこうと思います。

「カエデの木に穴を開けてそこから樹液を採取する」 メープルシロップはその樹液を煮詰め、糖度を高めて製品化したものと前回お話ししました。木に傷をつけるとそこから樹液が出るということは、実際木に触れたことのある方でしたらなんとなく想像できることと思います。カエデの場合、たまたまその樹液が甘くて美味しかった、ということで先人が利用したのではないでしょうか。しかし、その樹液を今のような製品化できるようなものにまでするには様々な苦労があったようです。

当然のことですが、木に傷をつけるということは木に負担をかけることになります。 樹液が沢山採れるようにと闇雲に木に穴を開けては、貴重な資源の恵みの源であるカエデそのものを枯らしてしまうかもしれません。また樹液とは木の生命力そのものを表しているようなもの、弱っている木からは良質な樹液は採れませんし量そのものも減ってしまっています。

木のことを気遣いながら、樹液を採取する。そのジレンマに沢山の先人たちが立ち向かい、その末に今の採取方法が確立されました。どのくらいの場所に穴を開ければいいか、開けたあとはどのようにケアをすればよいか。更に、どれくらいの樹齢のものが一番適しているのか、一年を通してどの時期が一番よいのか。

どれくらい樹齢の木が適しているのか。やはり若すぎてまだ細い木にとってはたとえ同じ大きさの穴でも負担が高くなってしまいます。そのため一般的には30年以上たった木が適しているといわれるようです。木の幹が25cm以上のものになってはじめて木を傷めずに採取できるようになると言われています。

次に季節ですが、カエデの木から一年中樹液を採ることができるというわけではありません。季節を通じてカエデの木には生理上のサイクルがあり、誤った時期に採取しようとしても樹液の質も芳しくなく木を傷めてしまうだけのようなものです。多くの動植物たちと同じようにカエデの木もまた秋になると活動がおだやかになり秋から冬にかけて眠りに入ったようなかたちになります。そして春、動物が冬眠から醒めはじめ木が芽吹きを始めようとするその時期に、またカエデも目を覚ましてゆきます。枝先が、そろそろ芽吹こうかな、と思うより少し早く木の根のほうではそのためのエネルギーを貯える作業がはじまっています。その源になる水分を沢山吸い上げ枝の先々まで行き渡るようにするのです。

カエデが目を醒まそうとする、その時期がまさに良質な樹液が採れる時期です。カナ ダでは2月末から4月初め頃まで。その時期は毎年微妙に異なります。その冬が暖冬であれば遅れる、というようにカエデの体調メンタルな部分に耳をすませその時期を決めてゆくのです。樹液が出始めた、最初の一週間くらいのものが一番上質のものとされ、メープルシロップにすると淡い琥珀色。春の少し前の森の清さが伝わってくるような美しく澄んだ色をしています。

メープルシロップはその昔イヌイットが作り上げたものと言われています。今でもカナダでは収穫期の早春には、大人も子供も採れたてのメープルシロップを雪の原に撒き散らして「大地の氷水」を楽しむといいます。

春を待ちわび芽吹く寸前の木のエネルギーそのものがメープルシロップには宿ってい る、その大地の恵みの素晴らしさを称える習わしが現在まで受け継がれているのです。

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